上記の記事内容について、当工業会としては以下の見解を表明します。
第一点は、米国で来年(2006年)の1月1日より、加工食品に含まれるトランス脂肪酸(以下「トランス酸」という。)の量をその商品に表示することが義務付けされることについてです。米国ではここ何十年という長い間、心筋梗塞や肥満の増加が大きな社会問題として取り上げられ、これにどのように対処していくかという課題が様々な立場から研究され、検討されてきました。行政府の施策としては、消費者が食品を摂取する際、可能な限り正確で役に立つ情報を提供するとの方針の下に、1993年から、当該食品に含まれる飽和脂肪酸とコレステロールの量を容器(或いは包装)に表示することが義務化され、現在も続いています。トランス酸に関しては、その後も継続して種々論議が交わされた末、2003年7月(今から2年前)に連邦政府保健福祉省食品医薬品局(HHS FDA)が、2006年1月1日からトランス酸も追加して表示を義務化することを明らかにしました。このように、米国の措置は同国の人々の健康や病気に関する長い間の調査・研究、検討を背景として、同国の実情に即して行われているものです。
第二点目は、自然界に存在しているトランス酸についてです。トランス酸は種々の生物にも微量ではありますが存在しており(※1)、比較的含有率の多いのが牛肉や牛乳・乳製品で、脂肪中4~5%含まれています。世界各国の人々の食生活におけるトランス酸の摂取についてみると、ヨーロッパのいくつかの国々では乳製品からの摂取がマーガリンなどからよりも多いことを示している研究報告もあります(※2)。このように、人間とトランス酸との間には長い付き合いの歴史があります。
以上を踏まえて申しますと、現在の科学的知見に基づき、当工業会は、トランス酸の摂取に関しまして、日本人の食生活の現状で何ら問題とはならないと考えております。皆様の日々の食生活におかれましては、先般政府(厚生労働省・農林水産省)より公表されました「食事バランスガイド」にも示されておりますように、穀物、肉、魚、野菜、果物などいろいろな食物をバランス良く採っていただくことが何よりも大切と考えます。
以上(※1) | 日本油化学会編「第4版油化学便覧-脂質・界面活性剤」 平成13年11月刊 (13頁) |
(※2) | European Journal of Lipid Science & Technology 106(2004) (391頁) |