日本マーガリン工業会

新谷弘実(シンヤヒロミ)著「病気にならない生き方」(表紙カバーの「赤」本、(株)サンマーク出版、2005年7月刊)並びに同著「病気にならない生き方2実践編」(表紙カバーの「緑」本、同上、2007年1月刊)における、トランス脂肪酸に関連した食用油脂並びにマーガリン等食用加工油脂に関する記述の「誤り」等について

標記の「赤」本では「マーガリンほど悪い油は無い」との表題の部分(同本97~100頁)、並びに「緑」本では「日本人が知らないトランス脂肪酸の恐怖」と題した部分(同本168~172頁)において、トランス脂肪酸に関連した食用油脂並びにマーガリン等食用加工油脂に関する記述に明らかに誤りがありますので、以下のとおり当工業会の見解を述べます。

トランス脂肪酸の生成について

著者は「赤」本98頁、「緑」本169頁及び171頁において、市販されている植物油は、ヘキサンという化学溶剤を使った抽出法で製造され、工程中でヘキサンの水素を取り込むので、そのほとんどがトランス脂肪酸になり、マーガリンやショートニングは完全なトランス脂肪酸になっている。また、トランス脂肪酸が酸化しないのは過酸化脂質と同じ構造だからだ、という趣旨を述べています。

<上記の記述について、私共は以下のとおり、明らかな事実誤認であると考えます。>

  • 1.油脂化学の常識として、サラダ油などのような植物油に含まれている微量のトランス脂肪酸は、油を精製する最終工程の脱臭操作で生成することが知られています。脱臭操作は240~250℃で行なわれるので、この時、熱エネルギーにより二重結合の炭素原子にシス体に配置している水素原子の一部がトランス体に配置します。即ち、脂肪酸分子の炭素原子に結合している水素原子の一部が結合方向を変えるもので、外部から水素原子を取り込んで新たに結合するものではありません。
  • 2.著者の記述している「ヘキサン抽出操作」においては、食品衛生法で使用が認められているヘキサンの沸点が64~70℃であり、これ以上高温にはならないので、トランス脂肪酸が生成する熱エネルギーには到底なり得ません。また、ヘキサンに結合している水素原子は安定しており、炭素原子から解離して不飽和脂肪酸に結合するような化学反応は、油の抽出操作では起こり得ません。
  • 3.そして実際、市販されているサラダ油に含まれるトランス脂肪酸の量は数%以下(日本油化学会刊「日本油化学会誌」第48巻9号(1999年)877~883頁参照)であり、また市販のマーガリンに含まれるトランス脂肪酸の量も同様に数%以下という事実((株)食品と暮らしの安全刊「食品と暮らしの安全」誌2007年2月第214号5頁参照)に照らせば、著者の上記記述は明らかに誤りです。さらに、過酸化脂質はその分子内に酸素原子を持っていますが、トランス脂肪酸は持っておらず、明らかに両者の分子構造は全く異なったもので、著者の認識は事実誤認と考えます。

トランス脂肪酸の存在について

著者は「赤」本98頁及び「緑」本172頁他で、トランス脂肪酸は自然界には存在せず、問題視されているのは人工的に作られたトランス脂肪酸である旨、述べています。

<上記の記述について、私共の承知しております事実関係は次のとおりです。>

  • 1.トランス脂肪酸は自然界には存在しない、というのは誤りです。即ち、内閣府食品安全委員会のホームページに掲載されているトランス脂肪酸についての「ファクトシート」では、油を高温で加熱する場合、植物油等の加工工程で水素添加する場合と並んで『自然界において、牛など(反芻動物)の第一胃内でバクテリアにより生成(脂肪や肉などに少量含まれる)』と説明されており、牛肉や、バターなど乳製品に含まれております。さらに、日本油化学会編「油化学便覧」(丸善、平成13年11月刊)によれば、トランス脂肪酸はホウレンソウの葉、イソギンチャク、クラゲなどに含まれていることが確認されております。
  • 2.また、水素添加工程など人工的に作られたトランス脂肪酸と、牛肉や乳製品に含まれる天然由来のトランス脂肪酸との「違い」或いは「区別」に関して、CODEX(国際食品規格)におけるトランス脂肪酸の「定義」では、両者を区別はしておりません。また、EU(欧州連合)の組織である欧州食品安全庁(European Food Safety Authority)が2004年9月1日にプレスリリースした “ Trans fatty acids : EFSA Panel reviews dietary intakes and health effects ”(仮訳:トランス脂肪酸:EFSAのパネルがその食事による摂取と健康への影響を検証) という文書においては、“…Finally, the panel advised that there are no analytical methods available to distinguish between TFAs from natural sources and those formed during food processing. ”(仮訳:…最後に、天然由来のトランス脂肪酸と、食品の加工中に生成されるトランス脂肪酸とを区別できるような分析手法は存在しない、ということをパネルは勧告した)と述べております。

トランス脂肪酸を含有する食品に関する規制について

著者は「赤」本98頁及び「緑」本168頁他で、欧米諸国では、食品に含まれるトランス脂肪酸の量の表示が義務付けられ、また一定量以上のトランス脂肪酸を含む食品の販売が禁止されている旨、述べています。

<上記の記述について、私共の承知しております事実関係は次のとおりです。>

  • 1.現在、一定量以上のトランス脂肪酸を含む食品の製造・販売を禁止する規則を実行しているのは酪農国デンマークのみです(2004年から。しかも、乳由来のトランス脂肪酸は規制から外されています)。それ以外の欧州諸国では、トランス脂肪酸含有量の表示義務とか、製造・販売の禁止とかの規制が敷かれている国は聞いておりません。
  • 2.アメリカのFDA(食品医薬品局)の規則では、商品毎の1サービング(1食分の意)当り0.5g以上のトランス脂肪酸を含む食品にはその含有量の表示が2006年から義務化されていますが、当該食品の製造・販売が禁止されているわけではありません。(付言すれば、トランス脂肪酸の含有が1サービング当り0.5g未満の食品には「トランス・ゼロ」とか「トランス・フリー」と表示することが認められております。)

トランス脂肪酸と疾病との関係について

著者は「赤」本98頁及び「緑」本168頁で、トランス脂肪酸は心臓疾患の原因になる他、ガン、糖尿病などの健康被害をもたらしていることが報告されている旨、述べています。

<上記の記述について、私共の承知しております事実関係は次のとおりです。>

トランス脂肪酸の過剰な摂取と疾病との関連について、上述した欧州食品安全庁のプレスリリースでは、冠動脈関連疾患発症のリスクとの相関関係を認めた上で、“…The NDA panel also evaluated other health effects and concluded that scientific evidence with regards to a possible relationship of TFA intake with cancer, type 2 diabetes or allergies is weak or inconsistent.”(仮訳:…NDAパネルはまた、その他の健康への影響も評価した上で、次のように結論した。即ち、トランス脂肪酸の摂取とガン、2型糖尿病、或いはアレルギー症状との相関関係についての科学的証拠は弱く、矛盾している場合もあった)と述べております。

私共日本マーガリン工業会としての「トランス脂肪酸」問題に関する見解は、このホームページの「分析結果と見解」欄に掲載しておりますので、どうぞご覧下さい。

トランス脂肪酸の過剰な摂取と冠動脈関連疾患発症のリスクとの相関関係が注目されるようになって以降、加工食品に部分的に含まれるトランス脂肪酸の量をさらに低減させようとする動きはグローバルな流れとなっており、私共の会員各社においても、消費者・ユーザーの皆様方のご要望にお応えすべく日々努力を積み重ねております。

マーガリン等食用加工油脂製品を今後ともご愛顧下さいますよう、どうぞよろしくお願い申し上げます。

(事務局注)上記説明内容の一部について、(財)日本食品油脂検査協会の専門家の協力を得ました。